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37 魔女の食事

last update Last Updated: 2025-11-27 20:04:27

「お前! まさか……我らと共に食事をする気か!? しかも何だ!? その料理……まるでディナーのように豪華にしおって!」

叔父が眉間に青筋を立てて怒鳴りつけてきた。

「ヒッ! も、も、申し訳ございません! こ、こちらのお方に豪華な料理を提供するようにと、命じられたものですから……!」

食事を運んできたフットマンが怯えながら頭を下げた。私は意に介さず、早速運ばれた料理を口にすることにした。

「……まぁ、この焼き立てのワッフル……とても美味しいわ」

フォークでワッフルを口に運び、満足する。そんな私を憎悪の目で見る8つの目。今までの私ならその視線に震えたかもしれないが、今では何とも感じなかった。

「ジークハルト様……嫌よ。フィーネと同じテーブルで食事をするなんて……わ、私はあの女に殺されそうになったのよ」

甘えた声でジークハルトに縋りつくヘルマ。……全く耳障りな声だ。自分から私を湖に突き落とそうとしたくせに。

再び、料理を口に運ぼうとした時――

「さっさとこの部屋から出ていけ! そのような恐ろしい姿に成り代わり、我らの食事の席に姿を現すとは……! どこまでも図々しい魔女め!」

ジークハルトは罵声を浴びせてくる。私はそんな彼と視線すら合わせずに言った。

「私とここで食事をするのが嫌なら、どうぞあなた方が出て行けば良いでしょう? ここは私の城なのですから」

「な、何だと……!?」

ジークハルトは今にも私を切り捨てそうな勢いで睨み付けている。……それにしても知らなかった。彼は穏やかな紳士かと思っていたのに実際の姿はどうだろう? 血の気が多く、まるで野蛮人そのものだ。私は本当に何も知らなかったのだ。皮肉なことに、この姿になって色々気付かされるなんて。

「何て生意気な魔女だ……」

毒づいてくる彼の言葉など、どうでも良かった。私は久しぶりの豪華な食事を口にすることが出来て満足だった。

フフ……美味しい。

思わず笑みを浮かべた時、叔母が悲鳴交じりの声をあげた。

「ヒッ! な、何なの……あ、あの娘……こんな状態で笑っているわ……」

「グヌヌ……ッ!」

叔父は今にも血管が切れそうな勢いで私を睨みつけていたが、何かを思いついたのか、隣で怯えながら立っている給仕のフットマンを手招きすると、一言、二言何かを話す。フットマンは頷くと、慌ててダイニングルームを出て行った。

カチャカチャ……

しんと静
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